私たちの手がけた個人庭のなかには、京都府の『伝統産業シリーズ』の一つの「京都の庭園」として記録フィルムに収められた庭があります。
座敷に面した主庭は南北に細長く、広さは約80平方メートルです。境界の全面に建仁寺垣を張りめぐらせることで、お施主さんの希望である「和」の雰囲気を醸し出しています。この竹垣は、隣家の壁を隠す役割も担っています。
地場産出の山石と布泉の手水鉢で構成した主庭には、北山台杉、アラカシ、アセビ、サツキ、苔などを配しました。蹲の周囲は、役石を並べる従来の手法をとらず、山間の風情をイメージして、一滴の水が流れ落ちる清涼感を楽しめる空間に。
居間に面した庭は、延段や苔、ベニシダによる「侘び」の空間に、青石の切石と燈籠、カクレミノを配し、山石を用いた敷石には躍動感をもたせ、静寂のなかにも動きのある風景をつくりだしました。
この庭をつくる際には、設計図面は用いませんでした。一つの空間軸に「伝統美」と「創生美」を融合させて現代を表現することをテーマに、つくり手の感性と素材との共生を楽しみたかったのです。